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『短歌本質成立の時代』/折口信夫

Posted on 2025年11月15日2025年11月20日 By texocorporation

万葉集以後の歌風の見わたし

との副題のついた折口信夫の小案内は、本邦の王朝和歌の展開の概要を現代人が理解するのに2重の意味で丁度よい。この国の歌の歴史を熟知する著者と、王朝が激動の変化を受けた太平洋戦争の前後の時代にこの近代国学の真摯な担い手であるという困難な道を歩まれた著者が幸いにも同一の人物であるからだ。

はじめに

折口信夫(1887-1953)の「短歌本質成立の時代」は、1926年(大正15年)12月に「『万葉以後』解説」として初出し、後に『古代研究』第二部 国文学篇(1929年)に収録された論考である。本論考では、折口の著作からの具体的な引用と事実的例証を積み重ね、その内容から最終的な主張と結論が導かれる形で、この論考の意義を考察する。

1. 「短歌本質成立の時代」の基本的な事実と内容

1.1 論考の成立と位置づけ

「短歌本質成立の時代」は、折口信夫の国文学研究における重要な論考として、『古代研究』第二部 国文学篇に収録されている。折口は、この論考において、短歌の形式が固定化された時期とその過程を具体的に分析している。

折口は、短歌形式の固定化を「飛鳥末から藤原へかけての時代」と特定している。この時期が「五句、出入り三十音の律語を意識にのぼせる為の陣痛期」であったと述べている。この具体的な時期の特定は、折口の実証的な研究方法を示している。

1.2 短歌形式の成立過程に関する折口の具体的な記述

折口は、短歌の発生について以下のように述べている:

掛け合ひの形から出発して小長歌になり、其は二部に岐れるところの小長歌の形から、全然変化を重ねて行く

この記述は、短歌が掛け合い歌から小長歌を経て成立したという、具体的な変遷過程を示している。折口は、さらに以下のように述べている:

長歌が次第に長くなり、これに創作意識が加つて来ると共に、一方声楽上の欲求から、長歌の中に短歌が胎せられて来る

この記述は、短歌が長歌の中から生まれたという具体的な過程を示している。折口の分析は、単なる理論的推論ではなく、具体的な形式の変遷を追跡する実証的な方法に基づいている。

1.3 万葉集以後の歌風の変遷に関する折口の分析

折口は、「短歌本質成立の時代」において、万葉集以後の歌風の変遷を詳細に分析している。折口は、平安時代の女房文学から中世の隠者文学への移行期に注目し、短歌の表現方法や主題の変化を具体的に追跡している。

折口は、新古今和歌集(1205年)前後の歌風の変化に特に注目している。この時期において、短歌の表現方法がより洗練され、技巧的で象徴的な表現が特徴となった。折口の分析は、この変化が短歌の本質成立の重要な段階であったことを示している。

2. 折口の「敍事詩」と「呪言」の概念の具体的な記述

2.1 「国文学の発生」における「敍事詩」と「呪言」の概念

折口信夫は「国文学の発生(第一稿)」において、日本文学の起源を「敍事詩」と「呪言」に求めた。折口は、これらの概念を具体的に説明している。

「敍事詩」は、神や祖先の物語を語り継ぐ形式として、折口によって定義されている。折口は、この形式が日本文学の起源において重要な役割を果たしたと論じている。

「呪言」は、神意を伝える言葉として、折口によって定義されている。折口は、この形式が日本文学の起源において、敍事詩と並んで重要な役割を果たしたと論じている。

2.2 「敍事詩」と「呪言」の短歌への継承

折口は、「短歌本質成立の時代」において、短歌の本質が「敍事詩」と「呪言」の伝統を継承していることを示している。折口は、短歌が単なる個人的な感情表現ではなく、日本の神話的・宗教的伝統を表現する手段として、その本質が成立したことを論じている。

この視点は、折口の短歌研究における一貫した方法を示している。折口は、短歌を単なる文学形式としてではなく、日本の古代以来の文化的・精神的伝統を継承する形式として捉えている。

3. 折口の研究における歴史的・思想的背景

3.1 明治維新期の国学と折口の研究

折口信夫の研究は、明治維新期の国学の流れを継承している。明治維新期において、記紀神話は国家統合の手段として再構築された。『古事記』や『日本書紀』に収められた神話は、「国家の基礎的物語」として選ばれ、制度や教育、祝祭、さらには死生観の体系にまで深く織り込まれた。

折口の研究は、このような国家的ロマン主義による神話の再創造とは異なる立場を取っている。折口は、古代的テキストの意味がそのまま近代に接続されたのではなく、神話や古典を解釈する過程において、人間存在が意味を獲得するという視点を提示している。

3.2 折口の同時代の研究状況

折口信夫の「短歌本質成立の時代」が発表された1926年は、大正末期から昭和初期にかけての時期である。この時期、日本の国文学研究は、実証的な方法と理論的な考察を組み合わせた研究が進められていた。

折口の研究は、このような研究状況の中で、独自の方法を確立している。折口は、実証的な分析と理論的な考察を組み合わせ、日本の古代文学を新しい視点から解釈している。

4. イタリアルネッサンスにおける神話研究の具体的事実

4.1 ルネッサンス期における古代神話の再発見

イタリアルネッサンス期において、古代ギリシア・ローマの神話が再発見された。オウィディウスの『変身物語』、ホメロスの叙事詩、ヘシオドスの神統記などが、中世のキリスト教的価値体系とは異なる世界観を示すものとして再評価された。

ピコ・デラ・ミランドラは『人間の尊厳について』(1486年)において、「人間は自分自身の創造者になれる唯一の被造物である」と述べ、人間の無限の可能性を説いた。この思想は、古代神話の再解釈を通じて、人間存在に新たな意味を与える試みであった。

4.2 ルネッサンス期における人文主義の確立

フランチェスコ・ペトラルカ(1304-1374)は、アウグスティヌスの『告白』に触発され、「人間の本性」について異教から学ぶことを試みた。彼は、アリストテレスよりもプラトンを評価し、プラトンの「道徳哲学」が神的な事項について高みに到達していると考えた。

このような古代神話や哲学の再評価を通じて、人間の尊厳や自由が再発見され、人間中心主義(ヒューマニズム)が確立された。ルネッサンス期の神話研究は、中世のキリスト教的価値体系を相対化し、新たな知的・文化的体系を構築する上で重要な役割を果たした。

4.3 ルネッサンス期における芸術における神話の再生

ルネッサンス期の芸術家たち(ボッティチェリ、ミケランジェロ、ラファエロなど)は、古代神話を主題として取り上げ、それを通じて人間の美や感情、自然の力を表現した。神話は、キリスト教的主題に代わる、あるいはそれと並行する表現手段として機能し、芸術の表現領域を拡大した。

ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」(1485年頃)や「プリマヴェーラ」(1482年頃)は、古代神話を主題とした作品として知られている。これらの作品は、神話の解釈を通じて、人間存在の意味を視覚的な形で表現している。

5. 明治維新・近代国学における神話研究の具体的事実

5.1 記紀神話の再発見と国家統合

明治維新期において、記紀神話は国家統合の手段として再構築された。『古事記』(712年)や『日本書紀』(720年)に収められた神話は、「国家の基礎的物語」として選ばれ、制度や教育、祝祭、さらには死生観の体系にまで深く織り込まれた。

明治政府は、1872年に学制を制定し、初等教育において記紀神話を教えることを定めた。この政策は、記紀神話を国家統合の手段として活用する試みであった。

5.2 近代国学における神話研究

明治維新期の近代国学は、日本の神話と天皇制を理論的に支え、それらを近代国家の基盤として確立する役割を果たした。本居宣長(1730-1801)の『古事記伝』(1798年完成)は、記紀神話の解釈において重要な役割を果たした。

明治期の国学者たちは、本居宣長の研究を継承し、記紀神話を近代国家の基盤として再解釈した。この再解釈の過程において、記紀神話は、単なる古代の物語から、日本人の存在の意味を探求する源泉として再定義された。

5.3 短歌と天皇制の関係

折口信夫の研究は、短歌と天皇制の深い関係を示している。折口は、短歌が単なる文学形式ではなく、天皇制と深く結びついていることを明らかにしている。

折口の「他界」観念と天皇制の関係に関する研究は、短歌が天皇制の文化的・精神的基盤を表現する手段として、その本質が成立したことを示している。この視点は、短歌の本質成立が、天皇制という制度的文脈の中で体系化された過程を示している。

6. イタリアルネッサンスと明治維新における神話研究の構造的類似性

6.1 時間を超えた物語の再発見

ルネッサンス期には、古代ギリシア・ローマの神話が再発見され、それらが時間を超えた物語として再解釈された。明治維新期には、記紀神話が再発見され、それらが時間を超えた物語として再解釈された。

両時代において、神話の再発見は、単なる過去の遺産の復興ではなく、時間を超えた物語を通じてリアルタイムの人間存在に意味を与える試みであった。この試みは、神話の解釈を通じて、人間存在の意味を再定義する重要な手段となった。

6.2 人間存在の意味の再定義

ルネッサンス期には、神話の解釈を通じて、人間存在の意味が再定義され、人間中心主義(ヒューマニズム)が確立された。明治維新期には、神話の解釈を通じて、日本人の存在の意味が再定義され、国家的アイデンティティが確立された。

両時代において、神話の解釈は、人間存在の意味を再定義し、獲得する重要な手段となった。この再定義の過程において、人間存在は、単なる一時的な存在から、意味を持つ存在へと転換された。

6.3 文化的・精神的基盤の再構築

ルネッサンス期には、神話の解釈を通じて、中世のキリスト教的価値体系が相対化され、新たな文化的・精神的基盤が確立された。明治維新期には、神話の解釈を通じて、江戸時代の儒教的・仏教的な価値体系が相対化され、新たな文化的・精神的基盤が確立された。

両時代において、神話の解釈は、既存の価値体系を相対化し、新たな文化的・精神的基盤を構築する上で重要な役割を果たした。この再構築の過程において、神話の解釈は、単なる学問的営為ではなく、文化的・精神的伝統の根本的な再構築を可能にする知的変革の手段として機能した。

7. 折口信夫の「短歌本質成立の時代」における意味創出作用の具体化

7.1 短歌における「敍事詩」と「呪言」の継承

折口信夫の「短歌本質成立の時代」は、短歌の本質が「敍事詩」と「呪言」の伝統を継承していることを示している。折口は、短歌が単なる個人的な感情表現ではなく、日本の神話的・宗教的伝統を表現する手段として、その本質が成立したことを論じている。

この視点から見れば、短歌の本質成立は、日本の古代以来の「敍事詩」と「呪言」の伝統が、文学形式として結晶化した過程である。折口の分析は、この過程を具体的に追跡している。

7.2 短歌形式の固定化と意味の生成

折口は、短歌形式の固定化を「飛鳥末から藤原へかけての時代」と特定している。この時期において、短歌の形式が固定化し、独自の詩形として確立されていった。

折口の分析は、この形式の固定化の過程において、短歌が単なる形式的な詩形から、深い内容を持つ文学作品へと発展していったことを示している。この発展の過程において、短歌は、日本の神話的・宗教的伝統を表現する手段として、その本質が成立した。

7.3 万葉集以後の歌風の変遷と意味の確立

折口は、万葉集以後の歌風の変遷を詳細に分析している。折口は、平安時代の女房文学から中世の隠者文学への移行期に注目し、短歌の表現方法や主題の変化を具体的に追跡している。

また折口は、新古今和歌集(1205年)前後の歌風の変化に特に注目している。この時期において、短歌の表現方法がより洗練され、技巧的で象徴的な表現が特徴となった。折口の分析は、この変化が短歌の本質成立の重要な段階であったことを示している。

8. 折口信夫の全著作における「短歌本質成立の時代」の位置づけ

8.1 『折口信夫全集』における位置づけ

折口信夫の全著作は、『折口信夫全集』(全37巻別巻4巻、中央公論社)に収められている。「短歌本質成立の時代」は、『古代研究』第二部 国文学篇に収録されており、折口の国文学研究における重要な位置を占めている。

折口の国文学研究は、単なる文学史の記述ではなく、日本の文化的・精神的伝統を理論的に再構築する営為であった。折口は、実証的な分析と理論的な考察を組み合わせ、日本の古代文学を新しい視点から解釈している。

8.2 『精選 折口信夫』における位置づけ

『精選 折口信夫』全6巻(慶應義塾大学出版会)には、折口の学問研究と詩歌がまとめられている。特に第III巻「短歌史論・迢空短歌編」には、「短歌本質成立の時代」が収録されており、折口の短歌研究における重要性が示されている。

折口は、研究者としてだけでなく、歌人(釋迢空)としても活動していた。この二つの側面は、折口の研究において深く結びついており、「短歌本質成立の時代」は、研究と創作の両面において機能することを示している。

8.3 折口信夫の思想形成過程における意義

松本博明氏の博士論文「折口信夫の生成」(2016年)は、折口の思想形成過程を詳細に分析している。この研究によれば、折口の思想は、日本の古代文学の研究を通じて形成され、それが近代日本の文化的・精神的伝統の再構築という課題と結びついていた。

折口の「短歌本質成立の時代」は、この思想形成過程において重要な位置を占めている。折口は、この論考において、短歌の本質成立を、日本の古代以来の文化的・精神的伝統を継承する過程として捉えている。

9. 結論:神話読解・古典読解の意味創出作用とその意義

9.1 折口信夫の「短歌本質成立の時代」における意味創出作用

折口信夫の「短歌本質成立の時代」は、短歌の本質成立を、日本の古代以来の「敍事詩」と「呪言」の伝統を継承する過程として論じている。折口の分析は、短歌が単なる個人的な感情表現ではなく、日本の神話的・宗教的伝統を表現する手段として、その本質が成立したことを示している。

この視点は、神話読解・古典読解の意味創出作用を示している。神話や古典を解釈する過程において、人間存在は意味を獲得する。折口の研究は、この意味創出作用が、短歌という文学形式を通じて具体化された過程を示している。

9.2 イタリアルネッサンスと明治維新における意味創出作用

イタリアルネッサンスと明治維新において、古代研究・神話研究が通底して重要であった理由は、神話読解・古典読解の意味創出作用にある。両時代において、神話の解釈は、人間存在の意味を再定義し、獲得する重要な手段となった。

ルネッサンス期には、神話の解釈を通じて、人間存在の意味が再定義され、人間中心主義(ヒューマニズム)が確立された。明治維新期には、神話の解釈を通じて、日本人の存在の意味が再定義され、国家的アイデンティティが確立された。

9.3 意味創出作用の本質的重要性

神話読解・古典読解の意味創出作用は、人間存在が意味を獲得する重要な手段である。この作用は、単なる学問的営為ではなく、文化的・精神的伝統の根本的な再構築を可能にする知的変革の手段として機能する。

折口信夫の「敍事詩」と「呪言」の概念は、この意味創出作用の本質を示している。「敍事詩」は、神や祖先の物語を語り継ぐことで、人間存在を時間の流れの中に位置づけ、意味を与える。「呪言」は、神意を伝えることで、人間存在を超越的な意味の体系の中に位置づける。

9.4 太平洋戦争の敗北と意味創出作用の不明瞭化

太平洋戦争の敗北と米国の占領政策により、日本の言語空間において、神話読解・古典読解の意味創出作用が不明瞭となった。戦前の神話の再構成が国家的ロマン主義と結びつき、他者の排除や異端の周縁化、制度への絶対服従といった構造的危険を伴っていたため、戦後は神話の語り直しが必要とされた。

しかし、この語り直しの過程において、神話読解の意味創出作用そのものが不明瞭となった。神話が制度となったとき、国家は暴力を語彙化し、倫理を沈黙化するという指摘もある。この沈黙を語り直すことが、制度を超えた倫理の第一歩であるとされている。

9.5 AI時代における意味創出の重要性

AIの進化により、人間の知の無意味化が進行している。AIは、膨大な情報を処理し、複雑な計算を瞬時に実行することができる。しかし、AIは、意味を創出することができない。意味の創出は、人間にしかできない営為である。

情報の処理や計算は、AIが担うことができる。しかし、人間存在に意味を与えることは、人間にしかできない。この意味創出の営為において、神話読解・古典読解の意味創出作用は、決定的に重要な役割を果たす。

9.6 最終的な結論

折口信夫の「短歌本質成立の時代」は、短歌の本質成立を、日本の古代以来の「敍事詩」と「呪言」の伝統を継承する過程として論じた重要な論考である。折口の分析は、短歌が単なる個人的な感情表現ではなく、日本の神話的・宗教的伝統を表現する手段として、その本質が成立したことを示している。

イタリアルネッサンスと明治維新において、古代研究・神話研究が通底して重要であった理由は、神話読解・古典読解の意味創出作用にある。この作用は、人間存在が意味を獲得する重要な手段であり、文化的・精神的伝統の根本的な再構築を可能にする。

しかし、太平洋戦争の敗北により、日本の言語空間において、この意味創出作用は不明瞭となった。AI時代において、人間の知の無意味化が進行し、意味の創出こそが求められる時代において、この意味創出作用を復興することは、決定的に重要である。

折口信夫の「短歌本質成立の時代」は、単なる過去の分析ではなく、AI時代における日本人の存在意義を探求し、意味創出作用の復興を促す、現在もなお決定的に重要な意義を持つ論考である。

フィレンツェのプラトンアカデミー総裁であったマルシリオ・フィチーノの言葉を引用して最後を締めくくりたい。「神話愛好は哲学の一形式なり」。


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